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蕾開きて、花咲きて

せつな

 夜が来れば眠り、朝が来れば目覚める。体を動かせば腹が減り、タタルの料理に舌鼓を打てば眠くなる。自分の感覚としてはゆうに百年前の、二十四歳の体は羽が生えたかのように自由で軽く、何処へでも飛んでいけそうだ。その〝当たり前〟に感謝と祈りを抱きながら、めくるめく日々を過ごしていく。

 しかし、この体にもひとつだけ問題がある。そう、実に健康的なことだ。実に、大変、元気すぎるのだ。この百年ですっかり衰えていた欲が、気づけば毎日のように襲い掛かって来る。だが、過去と未来における同一の魂の統合、塔での眠りなどを経たこの体を、常々案じてくれる恋人に、ただこの欲を発散させてくれなどと、そんな頼み方もできずにいるのも事実。

 そんな悩みを抱え続けて、はや一週間。石の家が静まり返った今夜も、大変に元気だ。ぴんぴんしている。まったくもって、非常に困った奴だ。深く深くため息を零し、それに手を添える。結局のところ、愛しい恋人を想いながらひとり寂しく慰める以外に方法はない。

「……っ……ん……」

 声が漏れないように、唇をきつく噛みしめる。なんともままならない状況ではあるが、こんな声を万が一にも聞かれるわけにはいかない。硬さを増したそれを、よりいっそう強く握る。寂しさと、息苦しさが、劣情と共にこみ上げる。

「ラハ、まだ起きてる?」

「は……っ!?」

 控えめなノック音と共に、恋人シラユキの声が響いた。

 慌てて手で口を覆ったが、もう遅い。もしや、廊下にまでことの最中の声が漏れていたのだろうか。あるいは、まったくの別件か。なんにせよ、もう声を出してしまった以上、寝たふりは出来ない。

 ガチャリと、ドアノブに手がかかる。まずい。吹き出る冷や汗と拭い、かつてない速さで衣服を整え、ダッシュで内側からそれ以上開かないように扉に手をかけた。

「あ、ああ、ちょうど寝ようとしていたところだけど、どうした?」

 半身になって、どうにかそそり立つそれが見えないよう、扉の隙間から顔を出す。シラユキもそれ以上は無理に開けようとはせず、止まってくれたのは不幸中の幸いだ。これより先は、いろいろなものを失いかねない。

「そっか……特別、何か用があるって訳じゃないんだ。こっちに帰って来てしばらくバタバタしてたし、よかったらゆっくり話したいなって……」

 夜着にショールをかけたシラユキの言葉には、やはり寂しさが滲んでいた。それもそうだ。石の家は賑やかで温かい場所だが、それゆえに二人きりで過ごす時間も取れないままだ。

 どうする? どうすべきだ?

 ここは「なら、今夜はゆっくり話そう」と、温かい飲み物を片手に語らうのがあるべき姿ではないか? 

 しかし、ひとたびこの部屋へと招きいれてしまったら、そんな優しさなどお構いなしの欲にまみれた体を晒すこととなる。絶対にダメだ。絶対に引かれる。

「……急にごめんね、気にしないで」

 何かを察したのか、ともかく今日のところは出直そうと思い至ったのだろう。シラユキは「おやすみ」と、眉尻を下げて少し寂し気に微笑んだ。そんな顔を見てしまっては、帰す訳にいかない。

 腕を掴み、その体を引き寄せる。扉に押し付け、逃げられないように両手をついて覆いかぶさると、唇に、そして角へと口づけを落とした。

「ラハ……あっ」

 おそらく当たる硬いそれに気づいたのか、かっとシラユキの顔に火が灯る。

「あの、えっと……」

 困惑するように視線を逸らした彼女の姿を前に、冷たい汗が頬を伝った。当然の反応だ。

「……ごめん、ダメだよな、こんなの」

 体を離し、口元を手で覆う。いっそのこと、ぶん殴って突き放してくれた方が嬉しいくらいだ。

「ち、違う! 違うの……その…」

 シラユキは戸惑うように口ごもると、火の灯った顔をさらに赤らめ、夜着のキャミソールをゆっくりとたくし上げる。その下には、フリルのついた大変に可愛らしい下着が控えていた。