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因果応報

ニャモニ

 夜が来ると、星を見ると。

 静謐な光を湛えて、満足そうな顔で結晶になった人を思い出す。

 

 レヴナンツトールにあるレストランのテラス席。

 いつの間にか夜も更けて、薄明りの下で最後の客になっていた。

 暁の皆は、塔やファダニエルのことを調べに奔走している。英雄と呼ばれている私は、体力を温存しておけと待機命令が出ていた。まあ、端的に言えばお留守番だ。

 石の家で時折帰って来る双子や、ヤ・シュトラたち。その中に、当たり前だが赤毛の猫も見かける。

 水晶公とは想いを告げ合い恋人に―男と女の関係になった。そんな彼は第一世界のクリスタルタワーで最後を迎え、グ・ラハの姿となって再度現れる。彼が生き長らえた安堵の中、失っていないはずなのに深い喪失感に襲われてしまい、恋人の関係を続けられなくなった。

 自分からリセットをかけたというのに、彼が向けてくる視線が懐かしくて。笑っている彼を見ると、胸がチリチリと痛む。  生死に絡む戦いでもしていれば考える暇もなかったというのに。今は妙に考えてしまうのだ。

 それを誤魔化すように、ここ最近はこうして酒に逃げている。

 

 生娘でもあるまいし、逃げるなんて情けない。

 

 前髪に指を突っ込んで後ろに梳く。深酒してぼんやりした意識を戻すために深呼吸を一つする。

 いい加減に、自分らしく戻りたい。

 

「ごちそうさま」

 お勘定をして、石の家にある自室で寝ようと歩きだす。

 足取りは少しだけふわふわして、酔いが回っているのが分かる。

 履き慣れているはずの細く高いヒールが、石造りの階段にふわふわと沈んでいくみたいだった。

 

※※※

 

 気づいた時には部屋の前で立ち止まっていた。どう歩いてきたのか覚えていないが、きちんと石の家の部屋まで戻ってこられたようだ。

「……偉すぎる、私」

 ひとまず自画自賛を呟きながら、自分の部屋の中へと入る。

 部屋の扉は施錠したことがない。貴重品は置いていないし、何よりカギをなくすクセがあるから施錠はやめたのだ。

 窓を開けっ放しにしてしまったのか、風が部屋に吹き込んできて気持ちがいい。モードゥナは霧と沼の湿気のせいか、やたらと蒸し暑くなる日がある。今日はまさにそういう日だった。

 シャツのボタンを外してブラジャーだけを抜き取ると、開放された胸の谷間から蒸れて湿った匂いがした。

 靴を脱ぎ、スカートも脱いで玄関のすぐ脇に置いてある籠に投げ入れる。

 いつも百発百中のはずが今日は肝心のゴールポストがいつもの定位置になく、バサリと音を立てて床に落ちた。

 灯りをつけて籠の場所を探すのも億劫で、明日またやればいいと気楽に考える。どうせ洗うのだから、床の上で一晩放置されても問題ないだろう。

 あくびを噛み締めながらベッドへ向かうも、床にはやたらと本が落ちていて歩きにくい。

 昨日あたり部屋で棚をぶちまけてしまったのか。

 

「…………まあいいか」

 

 シャワーは起きたら浴びよう。

 ズボラなことを考えながらベッドルームへ入ると、開いた窓から入り込む風でカーテンが大きく揺れて、差し込む月明りに照らされた赤い髪が見えた。

 まん丸く見開かれる、暗闇でも鮮やかな赤い瞳。

 頭上にある獣の耳はビクリと大きく跳ねてから、ぺたりと後ろに伏せった。

 上半身は裸で、肌は瑞々しく張りがある。月光に照らされる素肌には、身体を走る水晶はどこにもない。そして──。

 

「……ナニ、しているの?」

 

 見れば分かるが、質問してしまった。

 

 逞しい腹筋に迫るように反り返った、パンツから飛び出した男の象徴。

 それを握りしめている彼の──グ・ラハ・ティアの手。

 この状況で、やっていることは一つしかない。