logo

SAMPLE SITE

無謀な挑戦にはご注意を

流離のがっき〜

 無事終末を回避し、訪れた平穏な日々。

 ようやく二人で過ごせる時間が持てると思っていたが、英雄と名高い彼女、スピネルは沢山の依頼書を片手に世界を駆け巡っていた。オレもバルデシオン委員会の復興の為に分館に籠っていたからお互い様ではあるのだが……。

 時折ラベンダーベッドにある彼女の家へ訪ねもしたが、どうにもタイミングが合わずにすれ違う日々が続いた。

 恋人としては逢えぬ日が続くのは辛く感じるが、自由に羽ばたく彼女の姿も惚れた理由の一つである以上、彼女を縛りつけることもできず、日々悶々としていた。

 そんな中、彼女から待望の連絡が来た。

『しばらく暇ができたから一緒に過ごさないかい?』
「なんだって!?」

 リンクシェルから聴こえる彼女の甘い誘いに飛ぶ勢いで立ち上がり、盛大に椅子を倒してしまった。クスクス、と後ろで笑うクルルを差し置き通話に戻る。派手な音に心配してくれる彼女に問題ないと伝え、急いで仕事を片付けるからと彼女の家で落ち合う約束をした。

「ゆっくり羽を伸ばしてきてちょうだいね」

 彼女にもよろしくね、と笑うクルルに冷やかされながら見送られ、急ぎ足でラストスタンドへ向かった。半日程で資料は片付けたが、空を見上げると茜色に藍色が混じり、星が煌めき始めていた。手土産にと選んだのは日持ちする軽食とコーヒーを二つ。これならばもし夕飯が用意されていても大丈夫だろう。彼女に会いたいと駆り立てる気持ちを落ち着かせ、テレポを唱えた。

 浮遊感と共に景色が一瞬で変化し、見慣れた彼女の家の前に降り立った。彼女の家は店舗も兼ねており、今の時間なら賑わっているかと思いきや、入口には臨時休業の札がかかっていた。取手を引くとカランコロン、とドアベルが鳴り、店の中に入ると片付けをしていた執事が優しい笑顔で迎えてくれた。事情を聞くと、オーナーがしばらく家で過ごすと帰ってきた為にゆっくりして頂くべく臨時休業に致しました、ということらしい。

 ごゆるりとお過ごしください、と会釈して下がる執事を見送り、オレも彼女の待つ二階へと向う。

 なんて言ったって久々の逢瀬だ。期待に胸が膨らむ。

 手作りの食事か、冒険の話か、はたまた……。

 色々期待していたのは確かだ。だが、彼女の出迎え方はオレの想像をはるかに超えていた。

「あー、その……。助けて、くれるかい?」

 寝室のベッドの上に彼女はいた。しかも下着姿で、だ。腕に布が絡まっており、外せないと困っていた。

 これは遠回しのお誘い、なのか? 腕っ節の強い彼女が拘束された状態で待っていたと考えるだけで喉が鳴る。

「あんたにしては大胆な誘い方だな」

 情事に関していまだに初心な部分を残す彼女が自ら誘うとは考えにくいが、この美味しい状況を逃す程オレは聖人ではない。抱えていたお土産をベッドサイドのテーブルに置き、ベッドへと足をかける。ぎしり、ベッドがしなると共に彼女との距離が縮まる。

「ちがっ、着替えてた時の出来心で……っ」

 そんなつもりじゃないと後退る彼女の足を取り、ならばその気にするだけだ、と甲に唇を落とす。

「っ……ひぅ……まっ、先に外しておくれよ!」

 徐々に上へとキスをする度に甘い吐息が漏れ、もうすぐ腿に差し掛かるというところで押し退けられてしまった。リーチの長さで勝てず、渋々と手を離した。

「ラハのシャツ見つけて、着れるかなって思ってさ」

 腕を入れるも肩までは通せなくて、諦めて脱ごうとしたところで抜けなくなった、と恥ずかしさを誤魔化すためか彼女は早口で弁明しはじめた。

 ルガディン族の彼女がオレの服を着るのはさすがに無理がある、と以前話した筈なのだがと頭を捻る。

「『彼シャツはいいぞ』って聞いたから……」

 どうやら冒険者仲間の入れ知恵のようだ。オレが彼女のシャツを着た時のサイズを考え、ギリギリ着れるだろうと思ったらしい。

 戦闘に出れば最強、クラフトも一流、みんなから英雄と讃えられて慕われる彼女が興味本位でオレのシャツを着た挙句、脱げずに絡まって動けなくなるなんて……

 ──可愛すぎないか?

 こんな彼女の一面はオレだけしか知らない。その事実が優越感を抱かせ、そして強く情欲をそそる。

「もういいだろう? 外しておくれよっ」

 急かすように腕を差し出す彼女に悪戯心が高まる。

 差し出された腕を掴み、ベッドへと押し倒す。腕を頭の上に押さえつけ、意地の悪い笑みを浮かべて見下ろした。

「んなっ、ちょ、外し「悪いが断わる」っ、なんっ」

 慌てる彼女に反論をさせまいと、唇を重ねて黙らせる。すかさず舌を差し入れ逃げ惑う舌を執拗に追いかけ回し、久々の口付けを堪能する。隙間からは艶かしい声が漏れ、身体の力が抜けてきたところでゆっくりと唇を離した。

 互いの口を繋ぐ透明な糸が口付けの深さを物語る。