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勢いも大切です

明日茶

 グ・ラハ・ティアと、寝てしまった。

 酔った勢いで。

 いい大人が。

 

 いや、もちろん水晶公であった彼とは恋仲だったのは認める。そういうことだって数え切れないほどした。でも原初世界で眠っていたグ・ラハとは恋仲ではなく良き仲間であり相棒のようであったから、水晶公としての魂と記憶を連れ帰った私を出迎えたあと、そのあまりにも長大な出来事の全てを受けいれるのは容易ではなかったはずだ。負担もかなりのものだっただろう。そんな彼に私との関係について今後どうしたいのか詰め寄る事も出来ず、慎重にならざるを得なかった。つまりは、現在のグ・ラハ・ティアとはまだそういう身体がどうのという段階ではなかったというわけだ。

 距離を詰めて気持ちを擦り合わせてゆっくりと関係を深めていこうとしていた。その実いつまで経っても恋人未満のもどかしい状態だったのは私にとって悩みの種ではあったのだけど。

 だからって、だからって。

 こんな距離の詰め方あるか!

 

「はぁぁぁ…」

 噛み痕と鬱血痕、気怠い身体に甘い痺れを引き摺る下腹部。相当に激しく交わったのは事実だろう。隣には見慣れた赤毛がシーツに埋もれていて深く寝入っているのが見て取れる。第一世界にいたときに迎えた朝と違うのは、その艶やかな赤毛に混じる白がないことか。

 私としては、大歓迎だった。眠る前の彼も永き時を生きた彼も変わらず愛していたし、全てを受け継いだ新しい彼のこともまた同じくらい大切に想っていたから。ただどう踏み出せばいいかわからなかっただけで。

 肌に残る痕からは執着がみてとれる。行為の余韻が残る身体にも欲だけでないラハからの気持ちを感じる。

 肝心の最中の記憶がイマイチすっぽ抜けて思い出せないだけで。

「これは、覚えてないけど好きだとか愛してるとか言ってもらったってことでいいかな…」

 ちょいちょい、と零れる髪を引っ張ると「覚えてないとかありえるか?」ともごもごと聞こえる不満げな声。途中から耳がぴくぴく震えていたから起きていたのはわかっていた。

「断片的にはなんとなく…?」

「はぁ!? あんなに伝えたのにっ!?」

 身体に残る快楽の残滓は雨に甘く烟る花の香りのように不確かで、この記憶は願望なのか現実だったのかわからない。

 だから…

 がばりと起き上がったラハの水晶に覆われていない張りのある肌を指先でなぞって唇を落とす。

 淡く咲いた華に満足気に笑うとぐっと唇を噛み締めたラハに肩を掴まれて少々強引にベッドに押し付けられた。

「覚えてないなら、もう一度焼き付けてもいいか?」

 低く掠れる雄の声に女としての欲がずくりと疼いて、期待通りに触れてもらえる悦びに自然と唇が笑みを作る。

「うん…今のラハを、私に刻みつけて…」

 密やかに告げた言葉は重なる唇に塞がれて飲み込まれる。

 やっと、やっと欲しいものに手が届いた。

 背中に回した腕で熱い身体を掻き抱くと、そっと目を閉じる。

 あとはもう、身を委ねるだけだから。

 

 ゆっくりと肌の上を滑る唇。剥き出しの肩から鎖骨、胸の膨らみを辿って鳩尾へ、そして下腹部まで辿り着いたらそっとキスを落とされる。それだけの行為でじわ、と身体の奥が熱を持つのがわかった。

「……、ンッ」

 噛み殺せない声を抑え込んできゅっとシーツを握ると、その上から重ねられた掌が熱くてラハの昂りを思い知らされる。

 下生えを食んで唇で咀嚼するように挟みながら味わう癖はどうにかならないのか、なんて心の中で文句を言うのに零れるのは期待するような吐息で、それに応えるように器用な舌が敏感な芽を遠慮がちにつついてくるから全身を甘い痺れが襲った。

「ぁ、…ラハ…、」

「うん、…気持ちよくなろうな」

 滲む視界には水晶公の記憶を持ったグ・ラハ・ティアである彼が私を愛しいと隠しもせずにその表情で語ってくれている。長い時を生きた彼と原初世界の彼、その二人が混在した目の前の彼もまた私の大切な人なのだとその奇跡に胸が震えて、幸福の形を知った。